対話をいかにしてすすめるのか
ここ1年ぐらい、とある対話の場に参加している。
それに絡んでいくつか話を伺ったので、メモ。
今回の話というのは、対話を如何にしてすすめるのか、ということである。
そもそも対話とはなにか。
これは、On Dialogueという本にかなり詳しく書いてあるらしい。
*対話とは ーOn Dialogueについて
- 作者: David Bohm
- 出版社/メーカー: Taylor & Francis
- 発売日: 2007/03/27
- メディア: Kindle版
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Kindleだと結構安く売ってる。ちなみに私はまだ読んでないので以下聞きかじりである。
著者のBohmは、物理科学者であり、哲学・宗教、環境などの様々な分野にも知見が深いとのこと。
Bohmは、対話とは相手を説得することではなく、共通理解を探し出す行為だという。
諸問題の根源は、対話が的確にできない状況にある。
逆に言えば、背景の共有や意思の疎通さえうまくでき、共通理解が進めば問題は解決するはずである、というのがざっくりしたBohmの見解である(ややざっくりしすぎ感はある)。これは非常に腹落ちしやすいのではないか。
(ちなみに国の文化の違いを理解するということが、グローバル経営の諸問題の4割を解決することに繋がる、というのは私の恩師、故・天野倫文先生の言葉だった。これは、Hofstedeという学者による「多文化世界―違いを学び共存への道を探る」という著でも重要な視点だろう。後述するが、背景を探るということは他者理解において基本的ながらもっとも重要なことになっている。)
*対話と会議は何が違うのか
さて、では如何にして対話をすすめるのか?というのが今回のテーマである。
対話と会議は全く別物であるという。
良い対話が行われるためには、以下の条件が必要である。
①それぞれが、対等で自由な立場に立つ
これと対照的なのが法廷だ。法廷では、弁護士・裁判官・検察(・傍聴人etc)の立場に分かれ、それぞれの立場から主張を行う。
誰が専門家であるか、などは対話では重要ではない。
誰が言ったか、ではなく、何を言ったか、が極めて重要になる。
②自分の考えにこだわらない
自分の考えが絶対であるという姿勢は、他人にとって、くつがえすためのエネルギーを消費する。
自然体で対話をするためには、なるべく断定調を避け、「〜〜かもしれない」などの柔らかい表現を心がけることが大事だ(断定)。
③自分の考えや背景をオープンにする
感情的な背景とか、生い立ちとかが人の主観を左右していたりする。
④人の意見の背景を理解しようとする
これは③の裏返しであるが、この姿勢になって、問いかけを相手にしていく。
「〜〜さんの言っている文脈で言うと、この先何が起こっていくんでしょう」という感じである。
*推測のはしご
1人ひとりがもっている「思いこみ」や「固定観念」(=メンタル・モデル)について、理解することは非常に重要だ。
これについては、推測のはしご(Ladder of Inference)というのがある。
人が推測、仮説を出すには、段階があるわけである。
・事実・データ:まず事実やデータのカタマリがある。
・選択:事実のカタマリからある事実を抽出する。
・解釈:選んだ事実に、文化や経験から意味付けを行う。
・推測(仮説):意味に基づいて推測・仮説を創りだす。
この段階が個々人によって行われるので、同じデータ1つとっても違う仮説が出てくる。
違う仮説が頻繁に出てくるのだから、そこに至った道筋を知っておくことで、対話の場が有意義なものになる。
したがって、上記の各段階において、個々人が何を行ったのか?ということを明らかにするというのが、「相手の背景の理解」ということである。
こうしてみると、対話は会議とはかなり違うことが多い。
ディベートやディスカッションでは、背景の理解を含め、参加者の相互作用は低い。
代わりに、時間があまりかからず物事が決まる。
誰かが議長になったりとか、上司になったりしたほうが、まあ物事が決まるのが早いだろう。先に挙げた法廷の例が好例だ。
対話が必ずしも良いというわけではなく、その場に応じて話し合いのやり方は選ぶ必要がある。
*良い対話のイメージ
良い対話は小川のイメージで語られる。
対話は1つの小川であり、そこに参加者が小石を投げかけ、流れを創っていくわけである。
わりと対話って詩的だ。
その流れの中では、個々の発言量が均一になり、問いかけが増える。先に挙げた①〜④を考えれば当然そうなる。
明示的なテーマがある中で対話する場合と、テーマが言語化されていない中で対話する場合があり、後者になるとより難しいが、話し合いをしながら段々小川を創っていく。
*KISS、PREP ー対話をどうやって行えばいいのか
KISSの原則(KISS principle)というのがある。Wikipediaからそのまま引用すると、
"Keep it simple, stupid" (シンプルにしておけ!この間抜け)、もしくは、"Keep it short and simple" (簡潔に単純にしておけ)という経験的な原則の略語。その意味するところは、設計の単純性(簡潔性)は成功への鍵だということと、不必要な複雑性は避けるべきだということである。
対話においては、まとまって長い話をしてしまうと、思考が断たれてしまうことがある。
話が長いと情報量も多いのでいいのではないかと思うかもしれないが、実は、話が長くなるにつれて、繰り返しが増える。
だから、ある程度の長さ以上は話さないようにすることだ。
話すことをまとめてから話しなさい、ということだが、どうすれば良いのか。
これに役立つのが、PREPという型にはめて定型的に話してしまう方法である。
Point(仮説):私は〜〜ではないかなと思います。
Reason(理由):なぜならば、〜〜だからです。
Example(例):例えば、〜〜という例もあります。
Point(仮説の再提示):だから私は〜〜ではないかなと思います。
という形だ。
英作文の技術だとかプレゼンの技術とかで言われる形ではあっても、なかなか日常会話で会得しようとすると、スポーツと同じで、慣れが必要だ。
これは、日常の中でトレーニングするしかない。
ただし、いちいちPREPっぽい形に当てはめていると気持ち悪い感じになるので、あくまで守破離の「守」としてこの形を体得するのが良い。
と、こんな感じの事を聞きました、というメモ。
対話ができるようになりたい。